稽古場で、こんな作業をすることがあります。
台詞を一度、英語に訳す。そしてまた日本語に戻して言う。
遠回りに見えますが、これをやると抑揚と感情の温度がはっきり変わります。
「ごめんな」を訳してみる
例として「ごめんな」という台詞を考えます。
英語にすると、いくつも候補があります。
・ I’m sorry — 相手に対する謝罪
・ My bad — 軽い、カジュアルな非
・ Forgive me — 許しを請う、相手に委ねる
・ My sin — 自分の罪。相手ではなく、自分の内側を向いている
同じ「ごめんな」なのに、謝罪が向かう方向がまったく違います。
I’m sorry は外向き。相手に届けようとしている言葉です。
一方 my sin は内向き。相手に許してもらうことより、自分が背負っているものに焦点がある。
この違いを一度通してから日本語に戻すと、同じ三文字が別の音になります。
なぜ他言語を経由すると変わるのか
母語は、意味と音が癒着しています。
「ごめんな」を日本語のまま扱うと、これまで自分が言ってきた「ごめんな」の記憶がそのまま出てきます。癖として固定されている。
英語に訳す作業は、その癒着を一度剥がします。意味を選び直すことになるので、どの意味で言うのかを自分で決める必要が生まれる。決めてから戻すと、音が変わります。
英語である必要は必ずしもありません。要は、母語の自動処理を一度止めることが目的です。
やり方
1. 引っかかっている台詞を一つ選ぶ
2. 英訳の候補を3つ以上出す
3. どれが今回の場面に合うかを選ぶ
4. その意味を保ったまま、日本語で言う
3番が重要です。候補を出すだけでは変わりません。選ぶという行為が、意味を確定させます。
演技以外にも使えます
これは日常の言葉にも応用できます。
「すみません」「ありがとうございます」「お疲れさまです」。日本語には、意味が摩耗した定型句がたくさんあります。摩耗しているので、言っても届かない。
一度別の言葉に置き換えてから戻すと、何を伝えたいのかが自分の中ではっきりします。
謝るとき、あなたはどちらを向いていますか。相手ですか、自分ですか。
劇団天文座は大阪・新大阪を拠点に、毎日19時から22時まで稽古しています。演技を科学と言語で解く稽古場です。見学はいつでも歓迎しています。
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