劇団天文座 第39回公演『あなたが書くまで、何も始まらない』

これは、あなたの記憶と選択が、一つの世界を終わらせる物語。

2025年、秋。 劇団天文座が、演劇という概念そのものに問いを突きつける、最大の問題作を上演する。

これは、単なる「観劇」ではない。 これは、あなた自身が物語の最後のページを書き上げる、「体験」である。

閉ざされた脚本の世界で、10年間の時を繰り返す魂たち。 失われた記憶、果たされなかった約束、そして、あまりにも優しすぎた罪。 絡み合った運命の糸を解きほぐし、彼らを救うのは、 目撃者であり、共犯者であり、そして創造主となる、あなただ。

さあ、ペンを取れ。 あなたが書くまで、何も、始まらないのだから──。


【あらすじ】

その日、世界は二つに裂けた。

劇団天文座。夢を追いかける若者たちが集うその場所で、二人の天才が物語を紡いでいた。 圧倒的な筆力で世界を構築する、宮本千景。 誰も思いつかないアイデアで世界をきらめかせる、真壁ことの。 二人で一つ。彼女たちが生み出す物語は、仲間たちの未来を照らす、唯一無二の光だった。

だが、光が強ければ、影もまた濃くなる。 些細な言葉のすれ違い。成長を願うが故の焦り。そして、才能への愛憎。 二人を繋いでいたはずの絆は、ガラスのように砕け散った。

決裂の果てに、彼女たちが共に書き上げていたはずの脚本は、最後のページが空白のまま、投げ出される。 そして、その空白は、やがて劇団の全てを飲み込む巨大な虚無となった。

──それから、10年。

あの日、脚本と共に心を砕かれた仲間たちは、「脚本の中の世界」に囚われていた。 それは、傷ついた彼らを守るために千景が創り出した、あまりにも優しい聖域。 だが、出口のない聖域は、時と共に残酷な檻へと姿を変え、彼らは終わらない悲劇の登場人物として、同じ時間を、同じ絶望を、ただひたすらに繰り返し続けていた。

一方、現実の世界では、ことのは記憶を失い、抜け殻のように生きていた。 自分が誰なのかも、なぜ物語を書けないのかも知らずに。

この呪縛を解く、唯一の方法。 それは、記憶を取り戻したことのが、あの未完成の脚本に、真実の**【最後の一行】**を書き記すこと。

現実から彼らを救おうとする者たち。 脚本の世界の秩序を守ろうとする者たち。 そして、失われた記憶の欠片を集め、愛する人の名を叫び続ける者。

それぞれの正義と願いが交錯する中で、物語は、観客である「あなた」という最後の登場人物を得て、ついに動き出す。 10年間の時を超え、本当に記されるべき結末とは何か。 その答えは、まだ、誰にもわからない。


【本作の核心:イマーシブ・シアターという体験】

『あなたが書くまで、何も始まらない』は、客席と舞台の境界線を取り払った**「イマーシブ・シアター(体験型演劇)」です。あなたは安全な場所から物語を眺める傍観者ではありません。あなたは、この世界の運命を左右する、重要な役割を担う「現実からの来訪者」**なのです。

一、あなたの「記憶」が、物語の血肉となる。

この世界では、登場人物たちの「記憶」は欠片となって散らばっています。それは、楽しかった思い出も、消し去りたい後悔も、すべてが混在した魂の記録。 私たちは、来訪者であるあなたに問います。「あなたが人生で失ったものは、何ですか?」「あなたが人生で一番幸せだったことは、何ですか?」 あなたの手で書き記されたその「記憶」は、劇中、登場人物たちの失われた言葉として、舞台上で叫ばれます。あなたのパーソナルな記憶が、物語の世界とリンクし、彼らの感情に輪郭を与えるのです。これは、他の誰でもない、あなただけの物語が生まれる瞬間です。あなたの人生が、彼らの絶望を照らす光になるか、あるいは、さらなる闇に突き落とすのか。そのすべては、あなたが紡ぐ言葉に懸かっています。

二、あなたの「選択」が、世界の結末を決定する。

物語は、やがて一つの巨大な選択をあなたに突きつけます。 それぞれが信じる正義の果てに生まれた、【三つの異なる結末】。 誰か一人が犠牲になることで、他の全員が救われる世界。 すべてを失う代わりに、誰も傷つかない世界。 そして、たった一人を救うために、他のすべてを敵に回す世界。

絶対的な正解など、どこにも存在しません。 この10年に及ぶ悲劇に、どのようなエンドマークを打つべきか。 その最終決定権は、来訪者である、あなたの手に委ねられます。 あなたの選択が、彼らの未来を、この世界の法則を、そして物語のすべてを、永遠に決定づけるのです。 一度きりの観劇ではありません。あなたが劇場を訪れるたび、そこには異なる結末が存在するかもしれない。それこそが、本作があなたに提供する、唯一無二の体験なのです。


【登場人物 & 出演者】

脚本の住人 (囚われた者)

  • 宮本 千景 (Miyamoto Chikage) …… 高崎 ゆかり この世界の「作者」であり、最初の囚人。仲間を愛するが故に、世界そのものを書き換えてしまった哀しき創造主。その優しさは、やがて最も残酷な呪いとなる。
  • 早瀬 梨乃 (Hayase Rino) …… 川村 郁実 物語の真の「黒幕」にして、真の「悲劇の主人公」。ただ一人、10年前の「約束」を忘れず、仲間を救うため冷徹な悪魔を演じ続ける、純粋な愛の求道者。
  • 川崎 悠人 (Kawasaki Yuto) …… 池田 壱成 罪を背負いし、囚われの騎士。愛する「ことの」を救うため、終わらない悲劇の中で戦い続けるもう一人の主人公。だが彼の心にもまた、嫉妬という名の闇が潜む。
  • 真壁 ことの (Makabe Kotono) …… みおん 抜け殻の器。自らが犯した罪の重さに耐えきれず、記憶を失った天才。彼女がペンを取る時、世界は祝福か、破滅か、いずれかの終焉を迎える。
  • 東雲 巧 (Shinonome Takumi) …… 中原 瑠偉 魂の、冷徹なる外科医。世界の誕生を目撃した唯一の観測者。真実を追求する鋭利な言葉で、仲間たちの心の奥に隠された「病巣」を容赦なく切り刻む。
  • 石井 紬 (Ishii Tsumugi) …… 中西 南 内なる世界の、揺るぎなき良心。作品の出来栄えよりも、「みんなで笑い合った時間」こそが尊いと信じる抵抗チームの心臓。その想いが、壊れかけた絆を繋ぎ止める。
  • 稲葉 慎太郎 (Inaba Shintaro) …… 佐野 智康 英雄の弱さを映し出す、親友という名の鏡。お調子者の仮面の下で、誰よりも仲間の本質を見抜いている。川崎が決して認めようとしない欺瞞を、痛烈に突きつける。
  • 橘 春乃 (Tachibana Haruno) …… 上原 怜奈 才能の亡霊に取り憑かれた、哀れな探求者。天才の不在が生んだ空白を埋めようともがき、ことののアイデアを盗むという禁忌に手を染めてしまう。
  • 河野 陽菜 (Kawano Hina) …… 北大路 巡 新世界の、美しき神。かつて筆を折った教師。千景の世界を、より完璧で美しい『最高の悲劇』へと作り変えようとする、もう一人の「神」。
  • 柴崎 笑子 (Shibasaki Shoko) …… 白武 知生 失われた笑顔の記憶を持つ、悲劇のヒロイン。10年前の衝撃で感情の色を失い、「笑顔」を忘れてしまった。彼女の記憶が、物語の最初の鍵となる。
  • 船木 望実 (Funaki Nozomi) …… 花鈴 歪んだ友情と、贖罪の物語。親友を守りたいという想いが、いつしか支配へと変わり、自らの罪に苦しむ。本当の友人になるための彼女の戦いが始まる。
  • 村瀬 美月 (Murase Mizuki) …… 桐生 渚 言えなかった一言を、後悔し続ける者。親友の才能を信じながら、たった一言「好きだ」と伝えられなかった。10年越しの告白が、魂を救済する。
  • 大村 七海 (Omura Nanami) …… 仙石 明日香 善意という名の、悲劇の引き金。純粋な善意が、世界の歯車を狂わせてしまった始まりの人物。己の正しさを信じるが故に、嘘を重ねる。

現実からの来訪者 (救助者)

  • 野口 小春 (Noguchi Koharu) …… 小林 愛莉 弱さを乗り越えた、光のリーダー。10年前の悲劇から「逃げ出した」罪悪感を背負い、仲間を、そして愛する場所を守るため、再び戦場へと戻ってきた。
  • 森岡 想介 (Morioka Sosuke) …… 福岡 圭汰 愛と贖罪に生きる、不器用な使者。早瀬梨乃を一途に愛し、自らが犯した過去の罪を清算するため、内の世界と外の世界を繋ぐ重要な役割を担う。
  • 山科 昭吾 (Yamashina Shogo) …… 前田 和彦 壊れかけた、劇団の父。度重なる裏切りに心を閉ざした怒れる獣。だがその根底には、劇団員たちを守ろうとする、不器用で深い父親の愛が眠っている。
  • 榊原 すみれ (Sakakibara Sumire) …… 小松 あい すべてを包み込む、劇団の母。山科の「怒り」とは対照的な、深い「優しさ」と「赦し」で、傷ついた者たちの魂を静かに救済していく、物語の最後の良心。
  • 青山 智咲 (Aoyama Chisaki) …… 志水 桜花 憧れが憎しみに変わった、後継者。ことのの才能に焦がれるあまり、その不在に深く傷ついた後輩作家。歪んだ憧れは、時に鋭い刃となって襲いかかる。
  • 黒川 陽生 (Kurokawa Haruki) …… 古谷 陸 英雄の影に、心を折られた親友。川崎という眩しすぎる光に心を焼かれ、すべてを諦めてしまった。ことのとの邂逅が、彼に再び立ち上がる勇気を与える。
  • 西山 惇平 (Nishiyama Junpei) …… 長井 寛和
  • 竹内 稔 (Takeuchi Minoru) …… まぐろ 奪われた未来を憎む者たち。10年前の事件で成功の機会を奪われたと信じ、ことのと千景を憎む現実主義者。だがその心の奥底には、仲間を見捨てられない優しさを持つ。
  • 辻 彩音 (Tsuji Ayane) …… 神田 麻衣 冷徹な、もう一人のリーダー。友情よりも結果を優先する現実主義者。だがその判断はすべて、バラバラになりかけた劇団を守りたいという、彼女なりの愛から来ている。
  • 水沢 志帆 (Mizusawa Shiho) …… Julia
  • 井出 優花 (Ide Yuuka) …… 狩野彩花
  • 岡野 湊 (Okano Minato) …… 山田 髙廣 それでも、仲間を信じ続ける者たち。どんな絶望的な状況でも、仲間を信じ、励まし、ふざけ合うことを忘れない。彼らの存在が、この痛々しい物語に確かな救いと希望を与える。

【脚本・演出家より】

脚本・演出 森本 聡生

物語とは、何でしょうか。 それは、誰かが誰かのために紡ぐ、祈りのようなものだと、私は信じています。 しかし、その祈りが強すぎた時、時にそれは呪いへと姿を変えます。

この『あなたが書くまで、何も始まらない』は、創作という行為そのものに潜む、業(ごう)と救済の物語です。 才能、嫉妬、憧れ、後悔。 一つの場所に集った人間たちが、互いを想うが故に傷つけ合い、離れていく。それは、とてもありふれた悲劇かもしれません。 ですが、私たちはそのありふれた悲劇に、演劇という魔法をかけることにしました。

その魔法とは、観客である「あなた」の存在です。

あなたは、この物語において、神の視点を持つ傍観者ではありません。 あなたは、登場人物たちと同じように迷い、苦しみ、そして未来を選択する、血の通った当事者です。 あなたの過去の記憶が、彼らの言葉となり、あなたの現在の決断が、彼らの明日を創る。 これは、無責任な綺麗ごとではありません。 私たちは本気で、あなたの魂をこの物語に介入させようとしています。

劇場を出た時、あなたの目に映る世界が、少しだけ違って見えるかもしれません。 あなたが日々、無意識に行っている「選択」の尊さに、気づくかもしれません。 そして、あなた自身の人生という物語の「最後の一行」は、他の誰でもない、あなた自身が書くのだという、当たり前の事実に、改めて震えるかもしれません。

これは、私たちの物語であり、私たちの世界で起こった悲劇です。 しかし、劇場という特別な空間で、特別な時間を共有するその瞬間だけ、それは「あなたの物語」になります。

どうか、私たちと共に、この物語を完成させてください。 劇場で、あなたのペンが走るのを、心よりお待ちしております。


【公演概要】

  • 公演名 劇団天文座 第39回公演『あなたが書くまで、何も始まらない』
  • 日時 2025年 9月14日 (日) 13:00 開演 / 18:00 開演 (開場は開演の30分前)
  • 上演時間 約90分を予定
  • 会場 アプラたかいし 小ホール (南海本線 高石駅より徒歩1分)
  • 料金 2000円 (全席自由席)
  • ご予約 こちらの予約フォーム、 https://trkr.jp/ticket?p=tenmonzasanka
  • お問い合わせ ・公式LINE: https://line.me/R/ti/p/@303duzmj ・Mail: tenmonza@gmail.com

【スタッフ】

  • 脚本・演出 森本 聡生
  • 音響 細川 みさ
  • 照明 はるな
  • 制作 立山 鈴

主催:劇団天文座