稽古日誌

「昨日の正解は、今日の正解じゃない」

2025年11月10日 稽古レポート


その日、私たちは演技の”罠”に気づいた

「相手のことを考えて演じる」

前回の稽古で、この意識が良い結果を生んだ。だから今日も、俳優たちは同じように「相手のために」考えようとスタートした。

しかし、指導者の言葉は予想外のものだった。

「それが、反作用を生んでいる」


演技における「反作用の法則」とは何か

この日の稽古で最も深く掘り下げられたのが、俳優の意識と結果の関係性を示す「反作用の法則」だった。

なぜ「相手のため」が裏目に出るのか

「相手のために」という意識でスタートすると、人間の脳は無意識にこう働く。

  • 「相手を崩そう」
  • 「良い結果を出そう」
  • 「コントロールしよう」

結果的に、自分の頭の中で結果をコントロールしようとする意識が働き、結局は「自分のことばかり考えている」状態に戻ってしまう。これが「反作用」のメカニズムだ。

逆説的な解決策

指導者は、この反作用を逆手に取る方法を提案した。

「徹底的に自分のことだけを考えてやってみる」

逆説的だが、そうすることで結果的に相手との関係性が生まれる。演技とは、意図と結果の間に横たわる、この微妙なバランスの芸術なのだ。


「昨日の正解」という最大の罠

もう一つ、この日の稽古で厳しく問われたのが、俳優たちの**「再現」への固執**だった。

演技を殺す「決まりきった芝居」

昨日うまくいったセリフの言い方。 昨日褒められたテンション感。

俳優たちは無意識に、昨日と同じことを繰り返そうとしていた。

しかし、指導者はこう指摘する。

「今日のあなたの状態は?相手の状態は?」

体調、気圧、前日の疲労(例えば針治療の効果が残っている状態)―「今日の自分」を無視して、決まった芝居をしようとする。これが演技を**「死んだもの」**に変えてしまう。

演技の本質は「初めて」にある

演技は、目の前で初めて起こった出来事として行うべきだ。

昨日の成功体験を今日の正解として持ち込むことは、生きた演技を殺す。この学びは、プロを目指す俳優にとって最も重要な気づきの一つだろう。


個々の俳優への厳しくも愛あるフィードバック

カンカン(カン村君)―「才能があるのに、なぜやらない?」

最も厳しい指摘を受けたのがカンカンだった。

準備不足の連鎖

  • 欠席日のアーカイブやブログを確認していない
  • 他のメンバーより「理解が3歩遅れている」

コミットメントの欠如

  • 経験も技術も知識もある
  • しかし舞台上で「やろうとしない」
  • 諦めやサボりに見え、メインの役を任せられない

指導者の言葉は痛烈だった。

「プロを目指すなら、欠席した日の情報にも関心を持つ『努力』が必要だ。覚悟を見せろ」

技術的課題 低音発声時に語尾が早くなり、落ちて聞こえない問題も指摘された。

リクさん―「考えるのをやめるな」

自己観察のタイミング 舞台上で「自分の状態を見る」行為は、本番でするべきではない。

思考の継続の重要性 「脳がオーバーヒートしてわけがわからなくなっても、考え続けろ。そこで考えるのをやめると、無意識の思考が始まってしまう」

これもまた、反作用の理解を促す指摘だった。

協力の必要性 一人で黙って考えるのではなく、全員で協力してモヤモヤを解消していく必要性が強調された。

全員への共通課題―「意味のない行動は許されない」

行動の意図 舞台上の全ての行動には意味がなければならない。

  • 不必要な間
  • 理由のない行動
  • 相手との距離の停滞

これらは全て「意味のないこと」として厳しく追求された。

呼吸とタイミング

  • セリフの合間の呼吸回数が多すぎる
  • 相手のセリフが終わってから判断し動く(反応が遅い)

これらが全体のテンション感を下げている。


稽古の基盤―天文の3つのルール

全ての稽古は、この基本的なルールから始まる。

  1. 怪我しない
  2. 怪我させない
  3. 物を壊さない

シンプルだが、全ての創造的な挑戦の土台となる原則だ。


技法の試行―多様なアプローチ

この日の稽古では、複数の演技技法が試行された。

  • アクショニング(相手との関係性を意識)
  • マントラ
  • スメモリー
  • 直前行動
  • ボディランゲージ

特にキャンミーさんには、シーンを成立させるための**イニシアチブ(主導権)**を掴む重要性が伝えられた。


未来への展望―YouTube企画と新しい挑戦

映像編集の分業化

効率化のため、編集作業を分担する方向で検討中。

  • カット割り: 森本さん担当
  • テロップ付け: ポンちゃん、川村君なども参加可能に

新規企画のアイデア

  • 阪神ファンを増やす企画: 阪神に興味のない人をファンにする
  • 戦国武将プレゼン企画: 歴史の面白さを伝える

キャスティング変更

ムのキャスティングにおいて、予想外の欠席により、サクサクさんからアカリさんへの変更が検討された。


結びに―結果ではなく、プロセスを探求する

この日の稽古は、単なる技術の向上や結果の追求ではなく、「なぜその結果になったのか」というプロセスを深く掘り下げる時間となった。

演技とは、意識と無意識の間で、自己と他者の間で、昨日と今日の間で揺れ動く、繊細で複雑な営みだ。

その本質に近づくためには、自分自身の状態を正確に認識し、反作用のメカニズムを理解し、そして何より―

今日という日を、初めて生きること。

全員が今日の学びを活かし、明日の稽古に繋げていけることを期待している。

お疲れ様でした!