稽古日誌

【稽古日誌】2021/6/28 森本聡生

☆稽古前
朝から心が動くことが多い。
自分と向き合う時間。自己とは何か、自分という人間を形作る素材は何か。
それを探す旅をしていた。
俳優として舞台に立つことに対して鈍感になっている。
技術・心の動かし方。体の動き。視線の動き。見せ方。最善の状況に自分を持っていく術を心得ている。
これは自分が人形劇の劇団で同じ作品を何十回も公演したり、一つの作品 に10ヶ月の時間をかけて、ほぼ毎日稽古をした時に得たものである。
どんな状況でも、人間森本の事を切り離して俳優として体を使える。頭を使える。
そう、緊張しない。命のやり取りが出来ていない感覚だ。
心を燃やさなくても、大きな火を作れるようになってしまった。
心の火がマッチ棒だった時に比べて、楽をしている。
燃やせ。心を。体を。魂を。
何も削ってないやつに舞台の上に立つ資格はない。

☆アップ
いつもより外的な要因に振り回される。神経が立っている。なるほど、影響を受けている。健介がいつもより遅い時間にいる。いつもより行き切った奴がいる。昨日、ダンスを踊ってくれて雰囲気の変わった奴がいる。仕事をお願いしたら音速で結果を出す奴がいる。最近、サイズが大きい奴がいる。眺めたくなっている。話したくなっている。最低限はやった。でも、自己の集中には欠けていた。

☆歌
昨日、とある劇団員に褒められたからだろうか。歌いたいじゃなくて、聞かせたいになった。そう。調子に乗った。結果、コントロールを失い。力み。声帯がいたまった。

☆マジカルバナナ
いつも違う趣向でアプローチ。
なぜか、呼ばれやすい名前がある。それは、名前が持つものなのか、その人の持つ特性なのかを知りたかった。結果、名前の組み合わせが大きく寄与していることに気づく。
あと、やり始めはボロボロだった、いのちゃんがうまくなってきてる。継続は力なり。脳みその構造、思考のロジック、ルーティンをぶっ壊していきたい。

☆数字飛ばし
糸が見えなかった。自分自身、オートモード。先の稽古の事を考えていた。精彩に欠くことが多かった。玉の出所が見えない。これもまた違うアプローチを考えないとルーティン化してることに気が付く。壊す。

☆エチュード
健介の魂がいつもと違う位置にいたので、面白がった。ひたすらに健介を舞台に立たせる。なぜか一緒に立つ俳優が、健介の魂に寄りかかってるのが気になった。健介を媒介に、そこにいようとしている姿に。違う。自分の意志はどこにあるんだい?面白いことが正解じゃない。そこで1分間生きることが大切だ。相手によって能動的になったり受動的になったりする様が面白い。生きざまが見えるのがエチュードだ。

☆台本稽古
言うなれば1000CCのエンジンを積んだバイクなのに、30kmで走り続けてるライダーが、アクセルを全開にして、ロケットのような加速をした、そんな稽古だった。演劇は自己発露の芸術。舞台の上で服を脱いで裸になるぐらいじゃないといけない。この日のいのちゃんは裸だった。今まで劇団員に思っていても言えなかったことを、これでもか!というぐらい投げる。素晴らしい!美しかった。最高だった。そうだ、君はロボットじゃない。人間だ、心の器が大きな人間だ。何も思ってないです、とか、私なんかで逃げちゃいけない人間だ。自分のコンプレックス、逃げていた部分に真っ向から立ち向かった。空間がゆがむ、呼吸が出来なくなる。お金を払いたい。3000円払っても高くない。これから彼女と芝居を作っていくのが楽しみである。そしてなぜだが、僕自身もリスクを払いに行った。そりゃそうだ、彼女が命のやり取りをしたのに、自分が安全圏にいるのは失礼だ。僕も戦った。自分自身隠したい部分を発露した。結果は完敗だったけれど、コングラチュレーション!美しい戦いだった。僕の魂は昇華され、汚いものが美しくなった。芸術だ。これが叫びだ。ナイスファイト。