稽古日誌

2025年11月11日 稽古記録


「シリウス」という名の試練

本日の稽古、大変お疲れ様でした。

今回は、ディエゴさんからのリクエストもあり、稽古の強度を**「シリウス」レベル**に設定して行われました。シリウス——夜空で一番明るく輝く星。その名が象徴するように、役者陣の意識と熱量を限界まで引き出す、覚悟を問われるセッションとなりました。

「マックスは怖いから」と演出家は言いました。でも、シリウスもまた、十分に熱い。この高火力の稽古は、役者たちを意図的に追い込み、「今の自分」を壊すために設計されたものでした。


本日の稽古内容:何が行われたのか

🎭 キャトルミューティレーション/UFOシーン

天野川中央駅を舞台にした、トルミューティレーションや宇宙人の話題を含むシーン。リクさんとポンキチさんを中心に繰り返し稽古が行われました。

指摘されたポイント:

  • セリフのやり取りだけになっている
  • 感情の出し方が不十分
  • 相手への反応が遅い

漁師町とカノープス

船の舵柄を意味する星・カノープスや、漁師町の話題に関連するシーンの稽古。

指摘されたポイント:

  • 物理的な動き(切り返しや移動)の遅さが芝居全体のテンポを損なっている
  • セリフは早くても、体が遅ければ意味がない

🚨 災害・避難シーン

渡るさん、静香さん、マコリンさん、カズヒコさんらによる、災害時の緊迫した避難シーン。

指摘されたポイント:

  • 緊迫した状況下でのセリフにリアリティがない
  • 感情を「無性化」させてしまっている
  • 「体が死んでいる」——緊張感やパニックに対応していない

稽古を通じて突きつけられた真実

今日の稽古で最も重要だったのは、技術的な修正よりも、役者としての内面的なアプローチに関するディレクションでした。

💭 1. 「とりあえずやる」という罠

多くの役者が、無意識のうちに「とりあえずやってる」状態に陥っていると指摘されました。

  • 意識の集中:自分の意識を、自分のことに集中させる
  • 受け身の禁止:誰かが何かをするのを待つ受動的なスタンスでは、舞台は成り立たない
  • 期待しない:「やったからといって何かが起こるわけではない」——なんとなくやることをやめる

セリフが進んでいくだけで、何も起きない芝居。それは芝居ではなく、ただの作業です。

2. 体の反応速度という見えない壁

リクさんを中心に、体の反応速度の遅さが繰り返し問題視されました。

「セリフは早めても、体が遅ければ芝居のテンポは成り立たない」

特に「止まる前提で動いている」動きは、芝居の切り返しや展開を遅延させます。相手の芝居が終わってから反応するのではなく、常に集中し、相手の言葉や動きを見逃さないこと。それが求められました。

😨 3. 恐れと「諦め」という名の敵

演出家は、役者たちが自分の才能やレベルを低く見積もっている「乖離(かいり)」を感じ取っていました。そして、現状の自分を「壊す」ことへの恐れを克服するよう、強く促しました。

リミッターを外す 感情を出すことを怖いと思ったり、自分のアイデアに自信がないと、無意識にリミッターをかけて楽な方へ逃げてしまう。

現状維持の怖さ 今までの評価された領域から変えるのは怖い。でも、壊さなければ成長はない。

全力で向き合う 成長したい、お客様を喜ばせたいという欲があるならば、この3時間で一生懸命やらなければ意味がない。

🎬 4. 感情の「無性化」——芝居のリアルを殺すもの

特に緊急度の高いシーン(災害シーンなど)において、感情の強度を落としてしまう「無性化」や、本心ではない「フリ芝居」が厳しく指摘されました。

体が死んでいる 緊急度の高いシーンにもかかわらず、体が緊張感やパニックに対応していない。「体が死んでいる」状態では、セリフは相手に届きません。

衝動の制御 感情や衝動を出すことは大事。でも、出しすぎると周りを怪我させたり、芝居として成立しなくなったりする。そのバランス感覚が、役者としての壁になります。


🔥 壊す勇気——金属を鍛造するように

今日の稽古は、多くの役者が持っている**「こうあるべき」という安全牌(楽な道)** や、過去に評価された自分を守ろうとする姿勢 を徹底的に打ち破ろうとするものでした。

この経験は、まるで金属を鍛造する過程に似ています。

より強く、美しい形にするためには、シリウス級の熱量(火力) を加え、既存の形を壊す(破壊する) ことが不可欠です。

現状に満足せず、変化を恐れずにぶつかることで、役者としての天井は必ず破れる。

演出家が強く期待を寄せていることが、ひしひしと伝わってきた一日でした。


おわりに

夜空で一番明るい星、シリウス。

その輝きは、ただ静かに存在しているわけではありません。激しく燃え上がり、膨大なエネルギーを放出することで、あの眩しい光を放っているのです。

役者もまた、同じなのかもしれません。

今日の稽古で受けた熱量を、次の舞台で光に変えられるかどうか。それは、私たち一人ひとりの覚悟にかかっています。

さあ、壊そう。そして、生まれ変わろう。